わたしの鼓動

Dec/2003 

サンドラの骨

 何をどう書けばいいのか。
わからなくても、“書け、書け”と、私のどこかが、いう。

 ちょっとした機会があって・・・ロールプレイで自分がクライエント役をしているビデオを見た。クライエント“役”といっても、もう、入り込んでわんわん泣いている。悲しみにひたっている・・・。
自分で自分を見ていると・・・全然しらける。“この人、なんでこんなところで泣いているの?”
自分のこととは思えない。ひと事。ううん、ひと事よりもっと、共感できない。“なんかへん”という、後味しか、残らない。

しゃべっている内容と、あまりの激しい泣き様に、違和感が、ある。まるっきり、ちぐはぐ。

なんだかわからないので、毎日泣いてみることにした。
涙のもとは何なのか、涙のもとから何が出てくるのか。

泣くのは、エネルギーが必要で、苦しくもあり、そうして、泣き終わったあとの浄化のようなぐったりして同時に気持ちいい感じもあり・・・

毎日、毎日、泣いて、泣いて、泣いて、泣いていると・・・
言葉が出てくる。
胸がつぶれそうな感覚。奥深くからのしぼるようなうねるような狂乱にも似た同情。
  “かわいそう”・・・。
あれ?誰が?
  “かわいそうだよ”。
誰かに同情している。
  “痛いでしょう?”
・・・・・・
一生懸命、何かをさすっている。腕、だ。
  “かわいそうに”、“かわいそうに”。
大粒の涙がこぼれる。

出てきたのは・・・私の過去生の、女性。
自らもまわりも深く省みずに、放埒に生き、恨みをかい、犯罪者としてとらえられ、気が狂った人。
  “かわいそうに”、“かわいそうに”。
私以外の誰からも見捨てられている人。
たとえ、他の誰から、何をいわれても・・・。私は彼女を見捨てることは、できない。そんなこと、できない。どうしても。どんな姿であっても。どんな過去を持っていても。何をした人だとしても。どうしてもどうしても、見捨てられない。
そうして・・・彼女には、もう現実が見えていない。よかった昔にしがみついている。“また、ああいう時がくる”と、衰えた頭で考えている。よかった昔の出来事のほほえみの中にいる。現実とのあまりに大きな隔たり。
  “痛々しい”、“痛ましい”、“かわいそうなサンドラ・・・”

過去生の人は、サンドラという名だった。
いくら私が同情しても、泣いても、叫んでも、私はサンドラには、何もできない。何もいえない。
そんなことしたら、サンドラは正気に目覚めてしまう。現実の中に、何も望みがないことを知ってしまう。全身に痛みが走る。
そんなこと、できない。できるわけが、ない。
どんな言葉も、慰めも、彼女には、届かない。とどけられない。

サンドラは、立てひざで、うずくまっている。

どうしようもないので・・・。
私は、ただ、泣きながら、彼女のそばにいるだけだ。
  “かわいそうに”
と、つぶやくだけだ。

そうすると・・・
ほんの少しずつ、コンタクトがとれるようになる。
サンドラが、こちらに気がついてゆく。
“ああ、おまえか”。
サンドラがいう。
“おまえはなぜ泣いている?”
・・・私は、何も答えられない。
しかたがないので・・・私は、今、私がしていることを伝える・・・。
  “あのね、サンドラ。今日は、きれいなお花を見たよ。豪華だったよ”
“それはよかった。きれいなものは、人のこころを豊かにする”
華やかだった昔の経験を元に・・・サンドラは人生を語る。とらわれの身のサンドラには、もう花を見る機会も、ない。痛ましい。・・・私はもっと泣きじゃくる。

そう、こんなことは、みんな、私のイメージの中だけで起こっていること。
サンドラ、が過去生の人かどうかなんて、保証は、ない。
イメージの中の人と対話して、泣いている私は全くもってどうかしている。全くもっておかしいのは・・・百も承知、だ。
だけど、泣かずにはいられない。どうしても。どうしても。

たとえ、私の妄想だとしても・・・。
泣くことがどうしても、私の真実に近い。
魂が求めている。
泣かずにはいられないのだ。

胸の奥からしぼるように。涙を流す。

サンドラが成仏できるなら・・・私の残りの人生全部を捧げてもいい。
(成仏・・・正気に戻り、人生を全うすること。それは、サンドラの選択だ。私は何もできない。できずに泣いているだけだ・・・) ・・・わけもなく、そんなふうに思ったり、する。

泣き続ける。

泣き続け、祈り続ける。

ある日、サンドラがいう。
“身体が痛む。全身が、どこもかしこも。痛い、痛い”。
  “サンドラ、サンドラ”
  “サンドラ、サンドラ。そんなに痛いなら、正気になんて返らなくていい”
  “何も感じなくて、いい”
  “サンドラ、サンドラ、無理しないで”

そうして、サンドラは姿勢を変え、横たわり、魂は天に召されてゆく。
私はただ、静かに一部始終を見守る。

サンドラの魂は白い翼の天使になって、天国へとのぼってゆく。
サンドラの肉体は地球のあたたかな懐に抱かれ土へと帰ってゆく。
 
“ありがとう”

私の耳に余韻が残る。

 






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