登場人物:天使。翼のない半獣神(パーン)。
ナレーションA(女性)。
ナレーションB(男性)。
舞台中央に苦しげに倒れている半獣神。
下手に悲しげで心配そうな天使。半獣神を見つめている。
天使:あなたのさびしさを。苦しみを。
理解しなくて、ごめんなさい。
ナレーションA:半獣神には翼がない。翼がないと思っている。
ナレーションB:天使には翼がある。自由に大空を舞う、翼。
半獣神:地を這う苦しみを。男と生まれて、生きていく苦しみを。
わかってくれ。わからないなら、その翼をもいでやる。
(恐ろしげに襲いかかる)
天使:(逃げながら)それは、いや。それはさんざんやってきたこと。
本当はあなたにだって。翼があるのに。
わたしの翼をもがないで。
痛い。苦しい。絶対に、いや。絶対やめて。
A:男と生まれて生きていく。苦しみって?
B:自分の中心と永遠につながることができない苦しみ。
悲しいことを悲しいといえず。
苦しいことを苦しいといえず。
甘えられず。
助けを呼ぶこともできず。
すべてを一人で背負い。
勝ち続けなければならない苦しみ。
半獣神:せめて僕の前では。翼をひけらかすのは、やめておくれ。
天使:だって、あなたが。
わたしの翼が美しいと。
誰より優雅で、その姿に癒されると。魅力を感じると。
自由にいきなさいと。いったのよ?
A:そう。だから。自由に生きることが。
自分らしく生きることが。
結局は半獣神をも救うの。
大空を舞うことが安全だと。示すの。
B:でもそれは。天使の奢り。半獣神のして欲しいことではない。
半獣神:泥にまみれたおまえでいいから。
僕のそばにいておくれ。
お願いだから。
後生だから。
どこにも飛び立たずに。
ここにいろ!
天使:だめ。わたしはわたしの世界へ。
光の世界へ。
美しく輝く世界へ。
どうしても飛び立たなくては。
魂が喜ばない。
天使:そうしてまた、舞い降りる。
あなたの元へと。
地上のあなたへと。
天使:あなたが飛ぶお手伝いなら。
きっとわたしにも。できる。
あなたの背にある翼。
くびきの奥の奥の、そのまた奥にある、翼。
大好きなあなたの背にある。
大切な翼を。
きっと見つけられる。
天使:いつか翼を見つけたら。
一緒に空を舞いましょう。
そうして時には地上に降り。地上の体験も楽しむの。
時には一緒に。
時には別々に。
だって私たちは、同じものを見ているのだもの。
とても自由な。
穏やかな。
そうして、刺激的な。
毎日なのよ?
半獣神:(絶望的な様子で)
ああ。僕がそれをするのは。
僕が死ぬ時。
天使:生きているうちにできるのに。
その可能性がちゃんとあるのに。
あなたなら選べるのに。
そうするために・・・。
うまれてきたんでしょう?
半獣神:(静寂とともに)
死は身近な安らぎ。
死ぬまで生きる。僕は、僕を。
天使:(泣きながら)
それがあなたの選択ならば。わたしはあなたを止められない。
だけど、いつでも祈っている。あなたの苦しみが。
少しでも、軽くなりますように。
あなたがあなたの翼に気がつきますように・・・と。
いつまでも、いつまでも。祈っている。(泣いている)
B:時に人は死をかけて。自分であることを全うする。
正しさを証明する。
天使:そんなこと。知っている。
そんなこと・・・。そんなこと・・・。
絶対しないで。
愛している。あなたが好き。
A:愛さずにはいられない。
愛で何でも救えるとは。
思ってはいなくても。
天使:祈っている。祈らずにはいられない。
苦しみが少しでも軽くなりますように。
あなたが翼に気がつきますように。
神を見い出しますように。
ずっとずっと祈っている。
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